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しつこいようですが、わたしの生涯は10年から15年といったところでしょうか。
いつの間にかあなたを追い抜いて、
足腰もすっかり弱ってしまったわけです。
あなたといっしょに川原の土手を走り回ったり、空き地で転げ回ったり、
山や広い砂浜に連れて行ってもらったこともありましたっけ・・・・・。
あの頃は全てがピカピカ輝いて見えて、
それはもう、わたし無我夢中でした。
将来のことなんか考えもしなかったし、この瞬間が永遠に続くような気持ちでした。
でもやはりこの地球に誕生した以上、
だれしも年をとることからは逃れられませんね。
わたしもいつの間にかすっかり老け込んで、
ちょっと走ったりするとすぐに息切れする体になってしまいました。
最近では視力も衰え、自慢の鼻も昔ほど利かなくなりました。
お散歩もあなたの走りに、わたしの方がやっとついて行くほどです。
多分あなたにとって今のわたしは、
目ヤニをためたしょぼしょばの眼の、
毛の色艶も良くない哀れな老いぼれに見えることでしょう。
昔ならわたしも、自分がいることで、あなたを明るくしてさしあげられると、
どこかで思っていました。
でも今は、わたしがこの家に存在していること自体が当たり前すぎる風景になり、
あなたに気づいてもらえる時と言えば、
何かあなたを不快な思いにさせた時くらいでしょうか・・・・・。

そしてうつらうつらと夢みる昼下がり、
あなたとのステキな想い出にひたることばかりが増えてきました。

でもどうかお願いです。
わたしの一生の最終章にさしかかって、
あなたとのステキだった時間に水を差すような悲しい思いをさせないでください。
いつの日かあなたも、
今のわたしのように年老いて、
想い出に生きる時がやってくるのですから・・・・・。
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